思い出の教会

 

川越市松江町にある川越キリスト教会。

 

川越市内で最も古いレンガ建築で、

 

国指定有形文化財になっているそうです。

 

 

 

私は、小学校高学年か中学1年生くらいの時、

 

旧チェコスロバキアのピアニスト、故ヤン・ホラーク先生に

 

ピアノの特別レッスンをしていただいたことがあります。

 

当時ヤン・ホラーク先生は、武蔵野音楽大学の教授で、

 

私のピアノの先生が、武蔵野音大出身だったので、

 

そのような特別レッスンを受けられたのだと思います。

 

そして、この特別レッスンの会場になったのが、

 

松江町の川越キリスト教会だったと記憶しています。

 

 

 

 

 

 

特別レッスンを受けた中に、一つか二つ年下の

 

女の子(H子ちゃん)がいました。

 

H子ちゃんはとてもピアノが上手で、発表会で弾く曲は、

 

私よりずっと難しい曲ばかりで、憧れでもありました。

 

ヤン・ホラーク先生の特別レッスンで、私は、

 

ベートーベンの「ソナタOp.49-2」を弾きました。

 

H子ちゃんが弾いたのは、

 

シューベルトの「即興曲変ホ長調Op.90-2」でした。

 

後日、ピアノの先生から、

 

私がこの曲を弾いたらどうかと考えていたと聞きました。

 

でも、私には無理、はやくて指が追いつかない、

 

内心「弾かなくてよかった〜」と思いました。

 

難しい曲を無理してがんばるよりも、難易度を少し下げても、

 

安心してゆとりを持って弾ける曲がいいと考えていました。

 

 

 

 

 

H子ちゃんのシューベルトは、やはりとても上手で、

 

メリハリがあり、何と言っても右手の旋律の

 

音のつぶのそろい方がきらめくようで、

 

「あんなふうに弾けたら、いいなあ」と思いました。

 

(その後、秘かに楽譜を買って練習しました)

 

 

 

 

 

レッスン後の評価では、年の近いH子ちゃんと私は、

 

ヤン・ホラーク先生から、一緒にご指導を受けました。

 

「典子さん(私)は、情緒的な表現に優れているが、

 

 音が弱い。今後は音が立つような練習をするように」

 

「H子さんは、音が立っていて粒がそろっているが、

 

 全体的に音が強いので、情緒的な表現を磨いてほしい」

 

そして、

 

「二人は対称的だが、互いにない良さを持っているから

 

 ともに今後もピアノの練習に励んでほしい」

 

と、言われました。

 

 

 

 

 

 

その後、私のピアノレッスンでは、一つの曲を

 

「全てフォルテで弾く(強く弾く)」

 

「全てピアノで弾く(弱く弾く)」

 

という練習が加わりました。

 

「音を立てる」ことが、毎回の課題になりました。

 

そしてH子ちゃんの演奏をいつも思い出していました。

 

でも、ピアノの練習があまり好きでなかった私は、

 

流行りの曲を耳コピで弾くほうがずっと楽しく、

 

中学三年生の受験勉強の始まりとともに

 

ピアノ教室をやめてしまいました。

 

 

 

 

その後、時を経て、小学校の教員採用試験に受かり、

 

思いがけず、初任校で音楽教員になりました。

 

毎日、音楽の授業でピアノを弾くことになり、

 

ヤン・ホラーク先生の言葉がよみがえりました。

 

「音が弱い」「音を立てる」というあの言葉。

 

自分のピアノは、その後どうなんだろう?

 

音大を出ていないけど、音楽の先生として、

 

私のピアノは大丈夫なんだろうか…と。

 

そんなある日、某音楽企業主催の、

 

2日間のピアノ集中レッスンに参加したところ…

 

30代くらいの女の先生にガンガンに叱られました。

 

「なんなの、この音のうるささは!聴いてられないわ!」

 

開口一番に頭ごなしに、怒鳴られたので、

 

その後の言葉は何も残りませんでした。

 

今振り返ると、こんな言い方はないだろうと思いますが、

 

その時にヤン・ホラーク先生がほめてくださった、

 

「情緒的な表現が優れている」ということを

 

すっかり忘れていたことに気づきました。

 

「強く弾く」ことにしか頭になかった自分を反省し、

 

その後は、情緒的な表現ということを

 

よく考えて弾くようになりました。

 

 

 

 

 

 

習慣とは恐ろしいもので、気を付けていないと、

 

今現在でも「強く弾く」ということが、

 

癖となって、出てしまうことがあります。

 

それだけ、先生の言葉や指導の仕方というものは、

 

生徒にとって、多大な影響を及ぼすことになります。

 

もちろん、先生の指導の「強く弾く」は、

 

乱暴に弾かせたかったわけではないのですが、

 

言葉からその表現の意味を受け取るには、

 

当時の自分の思考力や理解力などが

 

そこまで成長していなかったのだと思います。

 

 

 

 

 

 

 

世の中にピアノ教室は、たくさんあります。

 

ピアノ教室の理念やレッスンのやり方は、本当に様々です。

 

ここ最近、施設や学校での音楽を通して出会う人達や

 

私の音楽教室への数々のお問い合わせの中で、

 

レッスン生一人ひとりに寄り添うためには、

 

先生自身のピアノの技術は、もちろん大事ですが、

 

個々の性格や生活環境、心身の発達や成長など

 

全人的な視野を持つことも大事かなと

 

考えるようになりました。

 

 

 

 

 

 

子どもの頃には理解できなかったことを

 

今こうして、気づくことができるようになり、

 

あのピアノ教室で、ピアノを習ってよかったな、

 

ヤン・ホラーク先生の特別レッスンを受けられて

 

本当によかったなと心から思います。

 

 

 

 

 

 

子どもの頃、通った川越のピアノ教室。

 

特別レッスンを受けた川越キリスト教会。

 

その川越で “ 音楽教室つむぎうた ” を

 

始められたことに深いご縁を感じます。