しあわせのメロンパン

 

小学校の教員を辞めた後、数年間、

 

就労支援の仕事をしていました。

 

ちょうど、今から3年前の7月末までは、

 

就労継続支援A型事業所である、

 

カフェを併設したベーカリーで

 

障がいのある方々と一緒に働いていました。

 

私の仕事は、主に販売の仕事でした。

 

 

 

 

店舗は、大きな公共施設の中の一角にあり、

 

公務員の方々や公共施設を利用した方々が、

 

お昼やおやつにと、パンを買いに来たり、

 

カフェで誰かと待ち合わせをしたり、

 

コーヒーなどで、ホッとひといきついたり…。

 

いろいろな方がお店に来てくださいました。

 

 

 

 

 

今日は、心に残る、ある男性のお客さんとの

 

エピソードです。

 

 

 

 

パン屋さんというと、お客さんの層は、

 

一般的には、女性が多いものです。

 

私が働いていたお店は、近くに公民館があり、

 

女性でも年配の方が多かったのを記憶しています。

 

なので、若い男性のお客さんは、めったにいなくて

 

いらしても、公共施設に勤める男性がほとんどでした。

 

 

 

 

3年前、6月下旬のある平日の夕方、

 

お客さんもほとんどいない時間帯、

 

お店にも店員、私ひとりだったような?

 

そんな静かな時間に、

 

その方は、やってきました。

 

 

 

初めて見る、30代くらいの男性。

 

ゆっくりパンを選んでいました。

 

やがて、私がいるレジのところに

 

パンを乗せたトレイを持ってこられました。

 

(あ、今日最後のメロンパン!)

 

と、私は心の中で思いました。

 

その方は、会計を終えると、

 

併設のカフェを利用されるご様子でした。

 

穏やかな優しい雰囲気の方でした。

 

 

 

 

しばらくして、その男性が目を輝かせて、

 

レジの私のところに飛び込んできました。

 

「このメロンパン、美味しいですねっ!!」(男性)

 

「ありがとうございます。」(私)

 

「今日はもう、メロンパンないんですか?」(男性)

 

「すみません、でも、北海道メロンパンならありますよ。

 

 これは冷やすとよりおいしいですよ。」(私)

 

「そうですか、メロンパンは、ないんですか〜。

 

 妻にも食べさせたかった・・・・。」(男性)

 

 

 

 

メロンパンは人気商品の一つ。

 

たいがいは午後、売り切れていました。

 

私もこのお店では、メロンパンが一番好きで、

 

閉店時にメロンパンが一つでも残っていたら、

 

買って帰りたいといつも思っているくらいでした。

 

今思うと、その夕方に一つでも残っていただけ、

 

その男性にとっては、ラッキーだったといえるのですが。

 

それでも、そんなにメロンパンを美味しいと感じて、

 

「妻にも食べさせたい」という優しいその想いが、

 

私の心にとても強く残りました。

 

 

 

 

 

その1か月後に、退職することが決まっていたので、

 

私がいなくなる前に、もう一度、

 

その男性に会えたらいいなと思いました。

 

 

 

私は、そのお店を立ち上げる職員の一人として、

 

開業する1年前から働いていました。

 

店舗の方は、ほぼ任されていたので、

 

やはり特別な思い入れはありました。

 

障がいのある方が働くパン屋さん。

 

 

 

 

職員も障がいのある方も、仕事は主に、

 

パンを焼く担当と販売担当とに分かれています。

 

パンを焼く厨房はとても暑く、その中でも

 

衛生面や安全面にとても配慮しながら、

 

一つひとつ、心をこめてパンを焼いています。

 

販売の方は、“ お店の顔 ” として

 

直接お客様と関わるので、緊張感が常にありました。

 

でも逆に、それがパンを通じて

 

様々な人との出会いにつながり、

 

特に、障がいを持つ方々にとっては、

 

大きな励みにもなっていることを

 

日々実感していました。

 

 

 

そんな就労支援A型事業所のお店を

 

支えてくださったたくさんの方々に、

 

私は感謝の意を伝えて退職しようと

 

残り少ない時間を、忙しく過ごしていました。

 

 

 

 

 

そして、

 

あれからおよそ2週間くらい経った頃か、

 

7月の土曜日の午前中、あの男性が再び…。

 

最初は、全く気づかなかったのですが、

 

その男性が振り返ったとき、

 

思わず、「あ!」と言ってしまいました。

 

その男性もにっこり、笑って、

 

メロンパンが2つ(だったかな)乗った

 

トレイを持って来て、会計をされました。

 

 

 

「今日はメロンパン、買えましたね!!」(私)

 

「はい♪」(男性)

 

「お近くにお住まいなんですか?」(私)

 

「いいえ、近くではないです。」(男性)

 

(そうか、じゃあ、研修とか何かで公共施設に来たのかな?

 

 でも今日は、奥さんの分もメロンパン買えてよかった!)

 

と思いながら、常連のお客さんと同じように…。

 

「実は私、今月で退職するんです。先日いらしてから、

 

 またお会いできたらいいなと思っていました。

 

 先日、メロンパンが一つしかなかったから、

 

 また来てくださるといいなと…。」(私)

 

「そうですか…。」(男性)

 

「お会いできてよかったです。ありがとうございます。」(私)

 

 

 

その日の業務もとても忙しく、あっという間でした。

 

が、帰りの電車の中で、メロンパンの男性のことが

 

思い出されました。

 

あの後、ご夫婦で一緒に、メロンパンを

 

食べてくださったんだろうな〜と・・・。

 

笑顔で「美味しいね」って言いながら。

 

想像するだけで、しあわせな気持ちになりました。

 

 

 

 

たった一つのメロンパンが、

 

人の心をつないでくれる、、、、

 

 “ しあわせのメロンパン ”

 

 

 

 

よかったね、メロンパン。

 

ありがとう、メロンパン。